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2009年9月4日~6日2009年APLA企画“北海道の酪農現場を訪問する旅”報告

9月4日~6日の日程で企画した“北海道の酪農現場を訪問する旅”には、会員・関係者含め15人以上が参加してくれました。この旅の目的は、日本の酪農の現状について学ぶこと、APLAの国内ネットワークを広げていくこと、「マイペース酪農」の理念や活動の様子をAPLAの海外パートナーにも伝えること、の3点に集約できます。

三友牧場の牧草地を見学。

「マイペース酪農」と言われてもピンとこない方が多いかもしれません。詳しくは、ぜひ『ハリーナ』105号掲載の「風土に生かされる農業」を読んでいただきたいと思いますが、ごく簡単に説明すると、国の農政(=ユアペース)ではなく、「適地・適作・適量」を基本として、その土地に存在する資源を循環させた酪農を営んでいるグループの名前です。今回、その中心的な存在である三友さんの牧場(中標津町)を訪問し、マイペース酪農の月1度の定期交流会に参加させてもらいました。約55haの広さがあるという三友牧場の草地を見学。「見渡すかぎり…」とはこのことです。三友さんによれば、1haあたりに牛1頭というのが大原則にもかかわらず、慣行では0.5haに1頭が普通だといいます。わたしたちにとってはピンとこないけれど、それを察してか三友さんが「6畳1間に毎日2人で暮らせって言われるのと同じだよ」と説明してくださってようやく具体的なイメージがつかめました。

しかも、最近では、コンクリートの舎内で牛が動き回れるよう放し飼いにし、中に設置されている個別の休息場所で自由に横臥休息させるフリーストールと呼ばれる大規模酪農法が流行しているそうです。これでは「6畳1間に2人」どころではありません。このように、牛舎から死ぬまで(乳牛としての役目を果たして屠場に送られるまで)外に出ることができない牛たちを見る機会もありました。効率を第一に大量生産に突き進む酪農は、牛にもヒトにも環境にも負担をかけていることは、明らかな事実として存在しています。

とある大規模牧場にあった研修生用のプレハブ。

そのひとつの例として、外国人研修生の問題があります。都市部の工場労働などだけではなく、農業分野でもフィリピン、インドネシア、中国から「研修生」という形で呼び入れて、実際には安い労働力として働いてもらうという話は聞いてはいましたが、北海道の大規模酪農も「研修生」の「安い労働力」に支えされているという事実を目の当たりに。このとき見学した大規模農場の入り口には、小さなプレハブ小屋があり、研修生がここで暮らしているのだと聞きました。酪農文化がほとんどないに等しいフィリピンからの研修生は、ここで「学んだ」ことをどう活かしていけるのでしょうか…。

マイペース交流会は全員が主役。

マイペース酪農に話を戻します。土曜日の午後に開かれた今回の交流会には、約60人が集まりました。女性、子ども連れの若い夫婦、新規就農者などが多いのも印象的でした。即席のテーブルとベンチで、メンバーの方々がそれぞれ持ち寄ってくれた昼ごはんを囲みながら、1人ずつの自己紹介と近況報告。参加者全員が話をする、これはマイペース交流会がはじまってから17年間、ずっと変わらないやり方だそうです。そのことが会の風通しをよくし、それぞれの参加者の学び・向上につながっているのです。

両親の牧場の隣で新規就農したばかりだという20代の夫婦は、自分たちの牛がかわいくてしかたないと話していました。牛のことを考えると他人に世話を頼めない、言い換えれば仕事を休むことはできないけれど、それは仕方ないことだと笑いながら。息子を連れて久々に交流会に参加したという男性は、将来について悩む息子にぜひこの交流会の様子をみてほしかったと言います。「後を継ぐことは決して強制しないし、本人が色々なものを見てから最後に自分で決めればいいけれど」と。「子どもが小学校にあがったので平日はなかなか参加できないけれど、今回は(APLAの訪問にあわせてもらったため)土曜日になったということで、喜んでやってきた」とある女性。他の参加者から刺激や元気をもらえるから交流会にはなるべく参加したいと話していました。お互いの話を聞きあい、「自分たちのやり方でいいんだ」と確かめあい、またそれぞれの現場へ戻っていくことができる…。共感しあえる仲間の存在は何よりも大きいなぁと感じながら、ネグロスの女性たちも交流の場を定期的にもちたいといっていたことを思い出しました。

翌日には、同じくマイペースのメンバーの森高さん(中標津町)、石澤さん(厚岸町)の牧場を見学させてもらいました。それぞれのやり方で、土地の資源(水、糞尿)を循環させて酪農を営んでいらっしゃいます。森高さんは、ホタテ貝の貝殻と土壌菌を有効利用し、石澤さんは北部ルソンのCORDEVも導入したBMW(バクテリア・ミネラル・ウォーター)*技術を導入している。石澤さんの「草を食べて乳を出してくれる牛に食わせてもらっていることに感謝している。だから、牛が牛らしく暮らせるように、邪魔をせずに、しっかり見ていてあげるだけ。人間の子育てと同じことよ」という言葉が、心に響きます。わたしたちは、そうした石澤さんたち「生産者」のお仕事があって初めて、食べ、生きることができているということにどれだけ感謝の心を持てているでしょうか。

機関誌ハリーナ06号より転載

最後になりますが、マイペース酪農の皆さんから頂いた非常に興味深く、そして励まされるようなデータを紹介したいと思います。根室地区のある農協では、粗収入、所得、所得率の平均が4,595万円、907万円、19.7%、一方でマイペース型酪農を続けてきた皆さんは、2,671万円、1,101万円、41%だそうです。粗収入だけを見ると規模が小さく、生産が劣るように考えられがちなマイペース酪農ですが、所得額も所得率も慣行酪農の人たちの平均を上回っていることが明らかになっているのです。「大事なことは、増やさないこと、拡大しないこと。牛が食べる草、草をはやす土、その土づくりに糞尿を堆肥として循環させていくこと」そう語るマイペース酪農の皆さんに対して、インドネシア・東ジャワの伝統的粗放型養殖池の農民も同じ理念で生きている、とツアーに参加したAPLA共同代表の村井さん。
資源を循環させ、持続可能な形での酪農を営み、豊かな暮らしを送り、そうした仲間たちが集まって元気な地域をつくっていく。それを実践している方々と直接お会いできて、本当に皆さんハツラツとされていると感じました。毎日寝てから起きるまで、365日休みなしで働くということは生半可のことではないし、自然や動物を相手にするということは楽しいことばかりではないはず。しかし、APLAがまさにアジアの仲間と一緒にめざしている地域内循環、地域自立をすでに体現している方々とのつながりを創れたことは、次につながる大きな一歩だと感じています。

*「バクテリア(微生物)・ミネラル(造岩鉱物)・ウォーター(水)」の略。バクテリアとミネラルの働きをうまく利用し、土と水が生成される生態系のシステムを人工的に再現する技術のこと。

報告:野川未央(のがわ・みお)

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