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2014年3月1日(土)エコシュリンプ生産者と一緒に原発について考えるセミナーを開催

自然の力を最大限活かした粗放型養殖でエビを育てている生産者と、それを冷凍加工してエコシュリンプとして日本に輸出しているオルター・トレード・インドネシア社(ATINA)のスタッフが協力して2012年に立ち上げた、KOIN(Konservasi Indonesia)というNGOがあります。APLAはこれまで、地域の環境(特に水質)を守るための活動としてATINAが石けんを広める運動などに協力してきましたが、このたび、KOINならびにATINAと協同で、原発について考えるセミナーを開催しました。

セミナー開催の経緯

実は、インドネシアでは1980年代から原発建設計画があります。市民による反対運動やアジア通貨危機の影響などもあって中断されたものの、近年その計画が再浮上、政府は、2025年までに4基の原発を建設する計画を発表しています。そのもっとも有力な建設候補地は、ジャワ島中部のムリア半島ですが、地元住民の根強い反対もあり、現在まで計画は進んでいません(当初の計画では、2010年着工、2016年運転開始)。あまり知られていませんが、日本からの原発輸出、つまり日本政府・企業の資金や技術などによってインドネシアに原発が建設される可能性は小さくありません(注1)。

そして、建設予定地の中には、エコシュリンプの産地であるシドアルジョやグレシックの対岸に浮かぶマドゥラ島の名前もあがっているのです。

東日本大震災と福島第一原発事故から3年。二本松有機農業研究会のみなさんやバナナ募金の届け先の幼稚園・保育園など、福島とのつながりをつくってきたAPLAだからこそ、いまもまだ何も解決していない原発事故のことやその影響について、エコシュリンプの生産者とATINA社の仲間に共有し、インドネシアの原発建設計画について一緒に考える機会にしたいとセミナーを開催することになりました。

「原発の問題は日本だけの問題ではない」

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生産者の自宅を借りて開催。

3月1日、お昼には、エビを養殖する生産者たちが20人ほど集まりました。まずは、ATINAとKOINから、このセミナーの意図についての説明があった後、日本による原発輸出に反対する運動にも関わってきているインドネシア民主化支援ネットワーク(NINDJA)の佐伯さんから、福島第一原発事故の概要とその影響について、わかりやすいプレゼンが。それに続いて、3月8日に劇場公開となった映画『遺言 原発さえなければ』の予告編を上映しました(インドネシア語で説明)。共同監督の野田雅也さんに了承を得ての上映でした。本編は3時間45分という長編ですが、ぜひみなさんもご覧になってみてください。

その後、APLAから福島の農業を取り巻く現状や、バナナ募金を届けている先の子どもたちの様子を伝えました。自信をもってエコシュリンプを生産している人たちだからこそ、有機農業者の苦悩などを身近に感じられるとの考えからでした。

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建設候補地が示された地図を見せながら説明するアディさん。

昼食休憩をはさみ、次は、インドネシアの原発建設計画や市民による反対運動について、アディ・ヌグロホさんからのプレゼン。わたしたちが事故前までは、詳細をほとんど知らなかった(知らされていなかった)ように、エコシュリンプの生産者にとっても、インドネシアの原発を取り巻く状況について、初めて聞くことばかりだったようです。

また、東北からバリ島に自主避難をされている木村さんがこのセミナーのことを知って、シドアルジョまで来てくださったので、当時の様子や今の想いなどをシェアしてもらうという盛り沢山の内容。すでに予定していた時間を大幅に過ぎていましたが、最後の質疑応答の時間では、鋭い質問や意見が活発に出て、主催者にとっては嬉しい驚きとなりました。

以下、参加者から出た質問や意見を一部ご紹介します。

  • 2011年2月に来日したワワンが熱い思いを伝えてくれました。

    2011年2月に来日したワワンが熱い思いを伝えてくれました。

    豊かな天然資源があるインドネシアが、なぜ原発を建設しようとしているのか?

  • 日本では、原発建設前にどんな運動がある(あった)のか?そこから自分たちも学びたいと思うので、おしえてほしい。
  • ラピンドの熱泥噴出事故(注2)にも、沢山の被害・環境への影響が出て、エビの収穫量にも影響があった。福島第一原発から漏れ出ている放射能は海にも広がっているというし、海には境界線はないから心配だ。
  • 原発の問題は、日本だけの問題ではない。自分も反原発運動を支持する。
  • 被害を受けた住民への補償はどうなっているのか?
  • (2011年2月に来日したATINAスタッフから)日本から帰国した直後に震災と原発事故があった。その時にもすごく心配したし、今日もそのことを考えていた。

「そもそもどうして原発建設を受け入れたの?」

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真剣に耳を傾ける加工労働者のみなさん。

夜の部では、ATINAの工場に併設されている食堂スペースで、スタッフと工場で働く工員さんたちを対象に同様の内容のセミナーを開催しました。エビ収獲時期にあたるこの日は、夜まで加工作業が続いていたため、遅番の工員さんたちには残念ながら参加してもらうことができませんでしたが、それでも食堂には80人ほどが集まりました。

朝からの仕事を終えて本来ならすでに帰宅時間であるはずの参加者たちは、ちょっとお疲れの模様。それでも、セミナーが始まると、真剣に耳を傾けていました。

大勢の前で恥ずかしいというのもあったのか、昼間のような質問や意見は出ませんでしたが、セミナー終了後に「原爆を落とされた経験をもつ日本の人たちは、放射能の恐ろしさを知っているはずなのに、そもそもどうして原発建設を受け入れたの?」といった質問をしに来てくれた人が何人もいたことは日本の皆さんに伝えておきたいと思います。“平和利用”の名のもとに導入されてきた、という歴史的事実を説明するしかないのですが、「本当になぜ?」と自問することになりました。

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木村さんのお話に真剣に聞き入る参加者。

また、セミナー終了後に、前出の震災の実体験を話してくださった木村さんに駆け寄ってきて、涙を浮かべながら、「被災地で1年活動されたあとに体調を崩されたとおっしゃっていたけど、今はもう大丈夫なのですか?」と聞いてきた女性もいました。今回のセミナーに参加者は、インドネシアの新聞やテレビを通じてある程度知っていた地震と津波の被害、そして原発事故の怖ろしさを、その渦中にいる方のお話を直接聞くことで、よりリアルに感じることができたようです。

前述の通り、エコシュリンプの生産者・加工労働者たちにインドネシアでも建設計画のある原発の恐ろしさを知ってもらうことが今回のセミナーの大きな目的だったのですが、放射能汚染の問題などのことを考えてみても、世界に対しても大きな迷惑をかけていることを改めて痛感した次第です。それでもなお、「安全性は確保されている」「コントロールされている」などと言って、国内の原発の再稼働やインドネシアを含む各国へ原発輸出を目論む政府や企業の動きを、わたしたちは許すことはできないという思いを強く持ち直しました。

報告:野川未央(のがわ・みお/APLA事務局)

注1:インドネシアの原発建設計画については、『現代インドネシアを知るための60章』(2013年、明石書店)の中の一章を執筆しています。ご興味のある方は、ご覧ください。

注2:2006年5月、シドアルジョで天然ガスを試掘していたラピンド・ブランタス社の作業現場で熱泥が噴出した事故。その熱泥が周囲の村々に広がり、広大な地域で、家屋や工場、田畑などが泥で埋まりました。2014年3月現在も、まだ熱泥の噴出は止まっていません。