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2010年9月カネシゲファーム農民学校 近況報告

2007年夏より、ネグロス島では、ナガシ農地改革受益者組合(NARB)、バランゴンバナナ生産者協会(BGA)、ネグロス有機農家連盟(ANOFA)の頭文字をとって名づけた農民ネットワーク“NBA”の活動が進められてきました。地主との長く激しい土地闘争を経て農地を獲得した元砂糖労働者の75家族で組合を結成し、家族農業と協同組合による無農薬砂糖キビ生産を進 めているNARB。オルター・トレード・ジャパン(ATJ)が無農薬バナナの輸入を始めた最初の産地であり17村のバナナ生産者約700家族を組織しているBGA。JCNCが支援してきたPAP21運動から生まれた野菜農家約50家族で結成したANOFA。現在この3団体で協力し、共同出荷や町の消費者との連携を作るなど、ネグロス版「地産地消」運動を構想しています。

2年前から始まった農民グループの連携ですが、それぞれ性格の異なるグループが集まったので、協働で何ができるか話し合いが長らく続きました。今のネグロスの農業とは一体何なのか。農民はこれからどうしていくべきか。農民たちはみな各地で小規模ながら農業を続けてきてはいましたが、過去継続的にあったNGOからのサポートがなくなり、見捨てられたように思い、疎外感を抱きながら暮らす日々が続いていました。そして今、改めて農民たちが切望したことは「もう一回農民のネットワーク作りを続けていきたい」、「NGOだけに頼るのではない、自分たちが主体となって活動し孤立しないで生きられる場を作ろう」ということでした。こうして3つの農民組織が集い、アイディアや将来の展望を共有していくことになりました。

その中で、マスコバド糖やバランゴンバナナの出荷を行うオルター・トレード社(ATC)より農場(カネシゲ・ファーム)を借り受けることができるようになり、農民学校の設立を目指すことになりました。今、ネグロスの農民たちはみな、人びとが集う場所が出来たこと、そこを実践農場として活用していけることに大喜びしています。

農民学校のターゲットは次の世代を担う若い農民たちです。今彼らが直面している課題は、いかに地域で農業をやっていくか。まずは各地域から推薦された若い農民を、農民が農民を教える実践農場で育てていきます。ここで何よりも大切なのは価値観作りです。もともと砂糖労働者が多いネグロスでは、農で生きていくこと、農民であることの誇りを持つことが困難な現状があります。自分たちは貧しいから農民をやっているんだという考え方を改めていくことがまずは第一歩だと考えています。

また、将来は砂糖やバナナ生産者を問わずさまざまな小農民にまでネットワークを広げていき、農民学校中心ではなく、農民学校と地域とが連動していく形にしていきたいと考えています。これまでの給料制の農園運営システムでは作物が出来なくとも給料が出るので安泰でしたが、今回設立する新しい農場ではそのシステムは取らず、実際に若者が植えて売って食べていくという実践的なものを目指しています。

さらに、農民が集いワークショップを行い、自らの地域で実践できるようにする、量と質を重視した作物の多様化・特産物を持つ、生産が始まり軌道に乗ればマーケティングの実践、女性たちによる花や野菜、果物の苗やコンポスト作り、行政とのネットワーク作り、農や農を取り巻く世界、政治・経済の動き、時事問題を学ぶ、など、農民学校で学んだ農民が地域に戻って農民を教えることで知識と経験が循環する『動く農民学校』を目指しています。もちろんこの農民学校だけで収束させるつもりはありません。そこがあることで地域が活性しながら広がりを持ち、さまざまな人と人、地域と地域がつながっていくことを考えています。

こうしたなか、09年7月から若者たちの実習農場が始まりました。3つの農民団体からそれぞれ推薦されてきた5人が、厳しい(?)面接を経て現在実習に励んでいます。チームワークもよく、慣れない作業も頑張っている様子を、写真でご覧ください。

《before》

《after》

3つの農民団体から5人の研修生(第一期生)が選ばれた。

先輩であるお父さんたちに教わりながら苗作りを始めました。

こちらは、土着菌などを使った天然の防虫剤や液肥。こういった有機資材も使っていきます。

農園にあったランブータンが、最初の出荷作物となりました。地域でもおいしいと評判です。

報告:吉澤真満子(よしざわ・まみこ)