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手わたしバナナくらぶニュース

2014年1月+2月No.222 ミンダナオ島のバランゴンバナナ生産者団体をご紹介!

日本に輸入されているバナナのうち、約9割がフィリピン産ということをご存知ですか?しかもその大半は、フィリピン南部に位置するミンダナオ島の大規模プランテーションで栽培されているバナナです。

大規模プランテーションのオルタナティブ

その「オルタナティブ(=現状とは違う、もうひとつの)」としてのバランゴンバナナは、現在フィリピンの5つの島から出荷されており、ミンダナオ島もそのひとつです(現在のミンダナオ島の産地は、北ミンダナオ、南コタバト州ツピ、スララ州レイクセブ、コタバト州マキララです)。

今回来日した3人(左からジェイムスさん、パオロさん、ビクターさん)

今回来日した3人(左からジェイムスさん、パオロさん、ビクターさん)

2013年9月、昨年に引き続きバランゴンバナナの生産者が日本の消費者と交流するために来日しました。今回の来日メンバーに抜擢されたのは、ミンダナオ島ツピの生産者であるビクター・コルテスさんとミンダナオ島レイクセブの出荷団体スタッフのジェイムス・シモラさん、そして来日2回目のオルター・トレード社(ATC)スタッフ、パオロ・ギニャボさんです。ミンダナオ島の生産者が来日するのは初めてのことです。 ミンダナオ島の肥沃な土地で大規模なプランテーション農業を推進する多国籍企業の影響はやはり大きく、ビクターさんとジェイムスさんが語るバランゴンバナナの栽培状況にも大きく関係していることを知りました。 しかし、今回の二人の話で明らかになったのは、「巨大なアグリビジネスのオルタナティブとしてのバランゴンバナナ」という単純な図式だけでなく、地域の平和や先住民族の意識改革など、経済的な観点からだけでは評価できないバランゴンバナナの取り組みの成果でした。

地域の平和につながるバランゴンバナナ
立派なバナナを抱えるビクターさん。

立派なバナナを抱えるビクターさん。

ツピは、ミンダナオ島の中でも南部に位置し、クリスチャン(キリスト教徒)とムスリム(イスラーム教徒)が隣り合わせで暮らしている地域です。歴史的経緯や価値観の違いから、両者の関係はぎくしゃくし、一般的には対立している状況ばかりが語られます。しかし、ツピでバランゴンバナナの出荷を担っている生産者協会TUBAGA(ツバガ)は、積極的にクリスチャン、ムスリム両方の生産者を増やす活動をしています。バランゴンバナナ生産に参加することで経済的にも安定していけば、社会的ないざこざもなくなると話していました。
ビクターさんをはじめ、TUBAGAの生産者は、バランゴンバナナの有機栽培を進める生産者協会としても誇りを持って活動しており、また地域の平和に貢献しているという観点から、米国国際開発庁(USAID)からパッキングセンター建設の資金援助を受けました。このパッキングセンターは2011年から稼働しています。このような観点で評価を受けるのはバランゴンバナナの産地としてもツピが初めてです。

土地を守り、安定した生活を
チボリ族のバナナ生産者ボイエット・マドロンさん。

チボリ族のバナナ生産者ボイエット・マドロンさん。

ツピの西側に位置するレイクセブは、地域の水源である湖の名前でもあります。レイクセブのバランゴンバナナ出荷団体スタッフのジェイムスさんからは、レイクセブでのバランゴンバナナの取り組みがいかにして土地や水域を守っているか、それが地域の未来につながっているということが語られました。 先住民族は豊かな森で狩猟採集の生活をしてきましたが、環境の変化で獲物の確保が難しくなってきました。そうした状況で多国籍企業によるプランテーションの進出のために、土地の使用権を売ってしまい、結果として、土地も暮らしも失ってしまう状況が発生しています。 また、一般的な援助団体が先住民族のために「援助プロジェクト」を持ちかけていますが、期限や予算に限りがあり、長期的な取り組みにはつながりづらい傾向があります。そうしたプロジェクトは「もらう」ものにすぎないのです。

イヤリングがとても素敵。レイクセブ先住民族の女性。

イヤリングがとても素敵。レイクセブ先住民族の女性。

一方で、バランゴンバナナ生産に関わるということは、定住して自分たちでバナナを栽培し、増やしていくことが求められます。与えられたものをこなすという意識を変えないことには、安定した生活には結びつきません。そして、先祖代々受け継がれてきた土地で農を軸として生活していくことは、土地を売却して一時の現金収入を得る短期的な生活向上の方法とも逆を行くやり方です。ミンダナオ島でのプランテーションを広げたい多国籍企業は、あの手この手で先住民族の持つ土地を買収しようとしていますが、自分たちの手で有機的な農業を進めていくことで、土地を守り、環境を守っていくことの大切さを先住民族の生産者と共有していく活動を進めています。人びとの意識改革には苦労も多そうですが、元神父でもあるジェイムスさんが寛大な心で取り組みを進めている様子が印象的でした。

黒澤仁実(くろさわ・ひとみ/ATJ)

今回で2回目の来日となるATCスタッフのパオロさんが、ツピとレイクセブに取材に赴き、約15分の動画を作成しました。ぜひご覧になってみてください→ http://altertrade.jp/archives/4152