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手わたしバナナくらぶニュース

2014年3月+4月No.223 東ティモールのコーヒー産地での新たな取り組み

アグロフォレストリーの導入に向けた一歩

みなさんにご愛飲いただいている東ティモールのコーヒー。APLAは、2010年以降、そのコーヒーの生産者たちと「コーヒーだけに頼らない地域づくり」のために様々な取り組みを続けてきましたが、2013年度は、アグロフォレストリーの導入に向けて動き出しました。アグロフォレストリーとは、多様な植樹を植栽し、その中で家畜や農作物を飼育・栽培する農林業の形をさしますが、持続可能な環境保全型の農林有畜複合農業として、その重要性が認められてきています。

コーヒーとそのシェードツリーが土地の大半を占めている東ティモールのエルメラ県で、コーヒー生産者たちの自給や地場流通用の果実類や薪材用の樹木を植樹することで、プランテーション型のコーヒー単一栽培から持続的な農林業の確立をめざします。同時に、世界的な気候変動の影響なども考えて、今後さらに重要になってくる森林保全や水資源保全にもつなげていきたいと考えています。

 生産者自身の気づきを大切に
乾期に水不足が深刻なコミュニティにて。地域の水源である泉の周辺に樹木がほとんどないことを指摘。水がめとしての森の役割を説く。

地域の水源である泉の周辺に樹木がほとんどない。水がめとしての森の役割を説く。

2013年8月末、東ティモールの代表的なミュージシャンであり、環境活動家としても精力的に活動しているエゴ・レモスさんの協力で、エルメラ県のコーヒー生産者グループに対してアグロフォレストリーを紹介するセミナーを開催しました。さらに、コーヒー生産者が暮らす地域を訪問して、コーヒーの畑の中や周辺の地形・気候・土壌などの調査もおこないました。どんな種類の樹木が適しているか、どのような形で作物の多様化を進めていけるか、という点を探るためです。

続いて9月末には、インドネシアの東ジャワ州にあるコーヒーカカオ研究所から、コーヒー栽培に関する専門家を招聘し、生産者たちが所有するコーヒーの畑を観察し、様々なアドバイスを受けました。主には、あまり手入れがされないまま古くなった木を蘇生させる方法、そして収穫量を増やすための接ぎ木の技術についてでした。前者は、カットバックという風に呼ばれますが、地面から30~50cmくらいのところで幹を切り落とすことで、翌年以降に新しい芽が生えてきて育つようになります。このカットバックについては知っている生産者も多いものの、「コーヒーの木を切る=翌年の収穫量が減る」と考えて、躊躇してしまう人がほとんどでした。しかし、今回その意味についてきちんと説明を受け、「躊躇する気持ちは吹き飛んだ」というコメントが多く聞かれました。

La iha bee, La iha moris(水がなければ、生命もないよ)
地域の長老が水の精霊に祈りを捧げる

地域の長老が水の精霊に祈りを捧げる。

これは、エゴさんが作詞作曲したオリジナルの歌のワンフレーズ。この歌の通り、私たちの命を生かしてくれる水に対して敬意を払うことの大切さをエルメラ県のコーヒー生産者たちと共有することができました。前述のアグロフォレストリーのセミナーの際に彼から提案を受けて以降、現地の仲間たちと一緒に準備を進め、2013年末、乾季には毎年のように水不足に悩まされているメルトゥト村で、水源を保全するためのプログラムを実施したのです。

APLAがこれまで一緒に活動してきた生産者グループGATAMIRのメンバーだけでなく、村長や地域の長老、子どもたちなども参加し、村・地域全体を巻き込んだプログラムとなりました。エルメラ県内の他のコーヒー生産者グループからも代表者が参加し、ともに作業をしながら学ぶという機会をつくることができたのも大きな成果です。

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エゴさんの指導のもと、みんなが協力して作業。

全4日間の作業は、これまで特段注意を払われてこなかった集落の上方にある水源を敬い、慣習的な方法で祈りを捧げ、水のルリック(精霊)が宿っている石を丁寧に祀ってからスタートしました。「おかげでけが人も出ずに、作業も順調に進んで、とてもいい形でプログラムを終えることができた」とエゴさん。村の長老曰く、「自分の子どもの頃(60年ほど前)までは、毎年、ルリックを敬う儀式を執り行っていたのに、いつしかそういう慣習も消えてしまった」とのこと。エゴさんの指導のもと、水源(わき水)を石できれいに保護し、その周辺に多数の植物を植えました。また、水源の上方に大きな池を2つ堀り、その周りにも植樹し、それ以外にも、土地の保水力が高まるように、多くの木花を植えました。今回、みんなの力で、自然に沿った形で水瓶となる池を掘り、保水してくれる樹木を植え、生まれ変わった場所では、これから毎年必ずルリックへの敬意が捧げられることでしょう。

野川未央(のがわ・みお/APLA)