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224号(2014年5月+6月)【コラム】小商い開店中(6)山羊さんの贈り物 修験deパン

山羊は平和で可愛いよ

yagisan1東京朝市アースデイマーケットの会場で毎月注目を集めている山羊の姿。その 山羊を連れて出店しているのが「山羊さんの贈り物 修験deパン」です。7年前に東京都内から山梨県の大月に移り住み、岩殿山に連なる山々の「修験の森」で、山羊たちと暮らしながら、小麦を育て、手作りの溶岩窯でパンを焼いていらっしゃるのは、北條喜久さん、美和子さんご夫婦です。

屋号にも「山羊さんの贈り物」とあるくらい、家族の一員となっている山羊たちも、 そもそもは、夏のあいだ中、広い山の草刈りをしなくてはいけないことに根を上げて、草刈り助っ人として何気なく飼い始めたそう。最初は雄雌合わせて4頭だったのが、 あっという間に増えて今では親子あわせて18頭になるといいます。

10回も失敗すれば大丈夫

yagisan3パンを焼くのは、喜久さんの担当。ご本人曰く“道楽者”で、JAZZサックスなどを続 けてきたけれど、パン作りにも興味をもち、独学で身につけたそうです。それでも以前は販売する気はまったくなく、パンを売り始めたのは、大月市が毎年開催している「軽トラ市」がきっかけだったとのこと。最初は音楽の演奏を頼まれたものの、「そういえばパンを焼いていたよね」と声をかけられ、パン屋さんとして出店を決めたといいます。「そうしたら予想以上に反応がよくて、辞められなくなっちゃったんだよね」。

そんなエピソードからもわかるように、商売っ気と呼ばれるものとは無縁なように見えるお二人。「『パンを焼きたいのでおしえてください』と訪ねてくる人がいるけれど、失敗を恐れずにやってみて、10回も失敗すればパン作りだって何だってできるようになるよ。物事の習得は、自分でやってみないとわからないことだらけ。やってみてから、自分がわからないことを先人に聞くと、腑に落ちるよね」というお話も印象的でした。

天然酵母パンは、巷に数あれど、自家栽培の小麦を挽く所からパン作りをしている人は、そうそういないはず。「近所に小麦を作っている方がいて、それでパンを焼いてみたらとてもよかったんだよね。ただ、売買があまり自由にできないということで、自分でも小麦を作ることにして、今は1反弱かな。自分たちが焼くパンがぎりぎりまかなえるくらいの量だよ」と語る北條さんは、輝いて見えました。

マーケットがくれたつながり

yagisan2「出店するようになって、買ってくれた人から反応がバンバン返ってくるのでやりがいがあるし、人とのつながりがぐっと広がった」というのは、まさに作り手と買い手が直接出会えるマーケットの魅力。山羊の乳から作ったチーズを入れたトマトペーストは、アースデイマーケットで知り合った農家さんのトマトをつかったもの。「本当においしくて自慢の一品です!」と話す美和子さんは、キッチンに立っているときが何より幸せだといいます。山梨の季節の果物をつかった自慢のジャムも安心してお届けできるように、とパッケージ作成に試行錯誤中だそう。ずっしり重く、噛みしめるほどに味わい深いカンパーニュと一緒に購入できる日が楽しみです。野川未央(のがわ・みお/APLA)

山羊さんの贈り物 修験deパン
HP:http://8074ufo.blog.ocn.ne.jp/

みなさんは「小商い」という言葉を聞いたことがありますか?『小商いのすすめ』(2012年、ミシマ社)の著者である平川克美さんは「自分の手の届く距離、目で見える範囲、体温で感じる圏域でビジネスをしていくこと」だと説明しています。グローバル化によって、一握りの大企業が世の中を席巻する昨今、私たちの身の回りには、誰がどこでどのように作ったかが見えにくいモノがあふれてきています。その裏では、環境破壊や資源を巡る争い、遺伝子組み換え作物の急増も。この事態を変えていく鍵が「小商い」にあるかも…!と考え、その実践者にお話を聞きます。