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手わたしバナナくらぶニュース

2012年1月+2月No.210 グロ-バルな目線で考えよう、TPP

1年前はTPPと言っても「何のこと?」、知っている人でもつい「TTP?」と言ってしまうことも多かったTPP。最近は反対運動もそこそこ見えるようになってきています。しかしその分協定交渉もドンドン進み、日本政府も本腰を入れてきているようです。

TPPは国のあり方、私たちの生活に影響を及ぼすもの、アジアとその近隣の国々の関係に影響を及ぼすもの

「TPPに反対する人々の運動」

TPPは、当初2006年、シンガポ-ル、ブルネイ、ニュ-ジ-ランド、チリの4ヶ国(P4)による自由貿易協定(FTA)として交渉が開始されました。その後、2009年11月シンガポ-ルでのAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議でオバマ大統領の参加表明で注目を集め、オ-ストラリア、ペル-、ベトナム、マレ-シアも参加を表明、現在は9ヶ国(P9)で協定交渉が進められています。同時にその内容もアメリカの意思を反映した包括的なものとなり、貿易だけでなく、金融・サ-ビス・投資・自由化促進の制度的枠組みなども加わり、現在21分野を対象とした交渉が進められています。

「高次元の包括的連携」を目指すこの協定は、国の諸制度・あり方の変更を迫るものであり、私たちの生活に深く影響を及ぼすものとなりつつあります。特に食料主権に関わる一次産業を無防備にする関税撤廃、健康保険制度に影響を与えかねない「企業活動に不公平があってはならない」という理由での制度自由化、国と国との協定であるのに投資企業が政府を訴えることの出来るInvestor-State Dispute 条項の議論などが懸念されます。

そしてこれまで9回の交渉で概ね原則の合意、争点の確認がされ、今後は詳細の交渉と条文の作成を経て、2012年内にも決着をしようということになっています。

11月中旬の一連の首脳会議の重要さ、そして経済・外交・軍事の軸足をアジアに移した米国

オバマ大統領が滞在するホテル前までホノルル市内をデモ行進する現地参加者たち

11月12日のAPEC首脳会議〜TPP交渉参加国首脳会議〜ASEAN首脳会議及びASEAN対各国首脳の会議〜東アジア首脳会議は、ASEANを間に挟み、まるで米中の鍔迫り合いの場といった様相を帯びたものでした。“連携協定”という点ではTPPと、RCEP(域内包括的経済連携。ASEAN+6(日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド)+αの16ヶ国で構成される貿易圏)とが微妙に対峙。トリを取った東アジア首脳会議には初めてアメリカとロシアが参加、経済連携以外にアジアの海洋安保についても首脳宣言に盛り込まれました。

経済成長の中心としてのアジアに注がれる目

このような中で一連の会議に出席した野田首相は、TPP交渉参加を目指して各国との事前協議に入ることを表明しました。そして同時期にカナダ・メキシコもTPP参加への意思を表明、フィリピンとパプアニュ-ギニアも関心を示しました。ロシアはRCEPへの関心を示したと言われています。

一方成長センタ-の中でも大きな位置を占めるインドネシアとインドは「TPP参加は考えていない」、韓国では11月22日の国会で米韓FTA批准合意が強行採決されました。

決めてはならないことを決めてしまうTPP、強者の論理に立つTPP

ハワイ大学で開かれた市民集会「MOANA NUI CONFERENCE(モアナ・ヌイ会議)」

先にTPPのもたらす懸念をいくつか挙げました。これらは、それぞれの国・社会・国民がこれまで培ってきた社会制度であったり、自然・社会条件に裏打ちされた固有の必要性であったり、それぞれの社会に固有の価値でもあります。国・国民の主権に関わる問題です。WTOにおいても批判が集まりましたが、TPPは更に進んだ形で主権を超えるものと言えます。そして外務省のウェブサイトに掲載されている「確保したい主なル-ル」と「慎重な検討を要する可能性がある主な点」をよく読むと、日本政府は強者・企業的論理に基づく楽観論一色で、大国の獲得した条件が小さな国々・民衆に及ぼす影響には目を向けることなく、大国としての自国にメリットがある、という判断が読み取れます。

求められるグロ-バルな視座:排外主義、被害者意識を超える反対運動を

今、反原発は言うまでもなく、反TPPの運動にも多くの人びとが参加するようになっています。しかし残念ながら、反対運動の声も政府の論理と同様、より弱い立場にある国々や人びとがTPPでどうなるのかという視点が欠けているように思えます。また企業論理一辺倒の問題点を普遍的に批判するかわりに“外資に蹂躙される”といった声が目立ちます。

TPPは私たちの暮らしに関わる問題、所謂“第3世界”に覆いかぶさる問題です。国内外に幅広く広がる運動が求められます。

 

近藤康男(こんどうやすお/ TPPに反対する人々の運動・APLA監事)