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2010年10月9日~11日山村自給の世界から交易を考える ~2010年APLA企画“島根県弥栄町を訪ねる旅”報告~

今年で第3回目となる国内交流ツアーは、島根県中山間地域センター・やさか郷づくり事務所との共同企画となった。2010年10月9日~11日の日程で、島根県浜田市弥栄町(旧弥栄村)を訪問。「中山間地での“豊かな”生活」、「地域自給からみえる新たな交易の可能性」などをテーマにした今回のツアーには、事務局2人を含む8人が参加し、2泊3日のプログラムを堪能した。

弥栄は、2005年10月、旧浜田市と那珂郡(旭町、金城町、三隅町、弥栄村)の1市4町村の合併により浜田市となった地域。全27集落中、高齢化率50%以上19戸以下が6集落、高齢化率70%以上9戸以下の集落が2集落ある。こうした小規模高齢化集落においては耕作放棄地の増加が顕著で、集落運営そのものが成り立たなくなってきている。歯止めのかからない人口減少を受けて、旧弥栄村時代から、定住促進施策は積極的に展開されてきた。過去には25年の定住で住居が譲渡される施策は当時全国的にも例のない試みとして注目を浴びた。また公営住宅の建設にも積極的で、これらの施策によりおよそ10年間で約200人以上のIターンの呼び込みにも成功したと言われている。(やさか郷づくり事務所ウェブサイトより部分的に抜粋)

 

刈り取った稲を掛けて天日乾燥中。稲の掛け方にこの地方の特色が出ている。

集合場所の広島駅から浜田市中心部を経由して弥栄町までは約2時間半。1日目は、弥栄に移住したお二人を訪問した。まずは、5年前に農業研修生として弥栄に移住した横山さんに簡単にお話を聞く。横山さんは弥栄にある農事組合法人西の郷で働きながら、自身の田んぼでお米を生産している。日本海から運んだ海水を使用した「潮米」をネット上で販売するなど、新しいことにもどんどん取りくんでいる青年だ。最上流部にあるからこそのきれいな水と海水のミネラルという、山と海の恵みから生まれたお米をぜひ試してみたかったが、まだ新米の準備が整っていないとのこと。うーん、残念。 その後、弥栄の中でも住民の少ない程原集落に暮らす撞井さんを訪問。家に続く道沿いの草刈は住人の責任だそうで、集落の人口減少はダイレクトに残った住民の負担につながっているということを改めて感じた。20年ほど前にNGOに参加してタイに渡った後、埼玉県小川町で1年間の有機農業研修を受け、弥栄に移住したという。以来、国産のエサにこだわった鶏卵の直売を収入の柱として、野菜を自給しながら暮らしている。「小規模で米を作っても諸経費で赤字になるだけ」と語る撞井さん。「お金をかけない暮らし」を実践している様子を拝見した。

築100年以上の古民家、立派!

夕方には、今回の宿「ふるさと体験村」へ。第3セクターが運営する施設で、近隣の古民家を移築した宿泊施設が敷地内に2棟建っている。わたしたちは、囲炉裏のある築100年は越えるという「箸立」という古民家に宿泊となった。この囲炉裏を囲んで、夜は交流会第一弾。地元の山のプロで、ふるさと体験村でもガイドなどをつとめている徳田さんや昼間にお会いした横山さん、撞井さん、さらに弥栄に移住して約20年という新庄さん・中田さんがかけつけてくださった。やさか郷づくり事務所からは、今回の現地コーディネーターをつとめてくださった相川さんの他に、研究員の福島さんも参加してくださった。食事をしながら、今企画の趣意説明、参加者の自己紹介、続いて福島さんより弥栄について簡単に説明をいただいた後は、歓談タイム。まずは初日ということで、それぞれがしている仕事や興味関心といった話からはじまり、弥栄地域固有の問題からアジアにつながる話まで、夜遅くまで話はつきることがなく、弥栄ご自慢のどぶろくもしっかり空き瓶にして就寝となった。

列になって山を歩く。

残念ながら朝から小雨が降ったり止んだりの2日目。それでも、山のプロ・徳田さんのガイドによる山歩きは決行! 今年は例年になく熊が人里に毎日のように出現しているとのことで、念のため「クマ鈴」をお借りする(といっても、10人以上もの人が連なって歩いていたら、熊もびっくりして出てこないだろうとのこと)。 弥栄では20世紀初頭までたたら製鉄がおこなわれていたこともあり、広葉樹林が炭や薪などに循環的に利用されていた。たたら製鉄の衰退後、現金収入源は木炭生産にうつったが、1950年代以降の電気・ガスの普及で木炭の需要・価格が低下し、広葉樹林の循環的利用が難しくなっていったという経緯がある。「こうして山に人の手が入らなくなったことで、ここ10年ほどで「ナラ枯れ」が進んでしまっているが、なかなか問題視されていない」と徳田さん。広葉樹が占める割合は45%近く、これは周辺県と比べると倍以上だそう。実際に森の中を歩いても、その豊かさが伝わってくる。歩いていて気づくのは、土がふかふかであること。広葉樹林が葉を落とし、それが微生物に分解されて土になるわけだが、水をしっかり蓄えてくれる山の力を体感する。徳田さんからは「毎年10月23日ころにはブナの木に耳をあてると水がざーっと流れる音がするよ。水分が土に下がって、木の葉が枯れる前触れの音」との説明があった。時期があわなくて残念、ぜひとも聴いてみたかった。豊かな水の源である山と森を後世に引き継いでいくには、「手をかける」ことを可能にする産業づくり、そしてその担い手が現われることを願うばかり。そして他人事ではなく、まちとむらがつながってどうそれを実現できるのか、まさにAPLAの課題だ。

何ともかわいらしいホコリタケ。

楽しみにしていたキノコ狩りだが、夏の猛暑の影響でキノコの生長が遅い模様。それでも、「これは食べられるよ。これはなかなかおいしいよ」と徳田さんが声をかけてくださる。結局、ホコリタケやハナイグチ、名前を忘れてしまったがムラサキ色のキノコ(いかにも毒キノコっぽい見てくれだったが、とても美味しかった)など、山からの恵みを少しだけいただいた。

森を出て、地元の森林組合が運営している炭焼き窯へ。一見炭窯には見えないプール式という炭窯に一同興味津々。職員さんが、仕組みを丁寧に説明してくれた。プールに木のチップと材木を層にして重ねて詰めていき、下に点火する仕組みだという。着火のエネルギー以外には、燃料はほぼいらず、使用する水も山から引いてきているため、地域循環型でコストも抑えられるそう。現在、完成した炭チップは、九州方面に中卸を通して出荷しており、土壌改良のために土に混ぜて使用されているようだ。いまは広葉樹林の材木を炭にしているが、弥栄に大量にある竹を有効利用できないか、現在試行錯誤中とのことで期待も高い。相川さんからは、「地元農家でも興味をもつ人がいるはずなので、話してみて、地域内循環にもつなげていきたい」との意見が出た。今回のツアーがきかっけで、地域内での新たな循環が生まれつつあることをうれしく思う。

思い思いにトッピング。

昨晩に引き続きの交流会第二弾は、やさか共同農場につとめつつ、自分でも米や野菜をつくっている新庄さん・中田さんのお宅で開催された。メインは、何といっても手づくり石窯で焼くピザ。ソース3種(トマト、バジル、みそ)と具材各種をあらかじめ準備しておいて、みんながそろってから生地に自由にトッピング。個性豊かで、焼き立てパリパリの手作りピザの味は最高! それ以外にも中田さんが腕をふるってたくさんのごちそうを用意してくれたり、浜田のお魚をバーベキューしたり、昼間収穫してきたキノコをパスタでいただいたり(キノコの下準備は結構大変だったけれど、超美味)。美味しい食事とお酒に参加者のみなさんの心もほぐれ、前日に引き続き、非常に濃い交流となった。それにしても、弥栄はIターンの定住者が多い。やさか共同農場(元弥栄の郷共同体)の存在もとても大きいのだろうし、やはり地域は「ひと」から成り立っていて、魅力ある人が人を呼び……という連鎖がおこっているのかな?と今後の可能性を感じた。

できたてのお味噌をつかみどりさせていただく。

そして、最終日には前述のやさか共同農場を訪問させてもらった。昨日お世話になった新庄さんの案内で、農場内をくまなく歩かせてもらうことに。幸運にも代表の佐藤さんからもお話が聴けて、「この地域を少しでも元気にすることだけを考えてやってきた」という言葉にちょっぴりジーン。主力製品の味噌については、機械を導入しつつも、手仕事の部分も大事にしつつ、地域のおばあちゃんたちの技を引き継いでいきたいとのこと。できたての味噌のつかみ取りもさせてもらって、ありがとうございました!

以上、盛りだくさんであっという間の2泊3日となったものの、現地のみなさんからも「楽しかった、またやりたい」という感想を多くいただき、次につながるのではないかとの期待も生まれた。今後も「むらとまち」の相互交流を持続させていければ……と願っている。

報告:野川未央(のがわ・みお)

★今回の訪問の裏話がフィールドノートNo.12でご覧になれます。