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2012年12月10日~12日KF-RCにてバイオガスを利用した発電の実験が行われました。

BMW技術協会の協力で実現したバイオガスを利用した発電実験。BMW技術協会事務局長の秋山澄兄さんのレポートを転載します(『AQUA 一般社団法人BMW技術協会機関紙アクア No.251』より)。

フィリピン・ネグロス島にあるカネシゲファームにてバイオガスを利用した発電実験が行われました。

12月10日~12日の3日間に渡り行われた実験は、山梨大学・帯広畜産大学、BMW技術協会、APLA、匠集団そらとの共同研究プロジェクトで、山梨大学生命環境学部の御園生拓教授と、北海道・帯広畜産大学((有)十勝アグリワークス)エンジニアの青木賢二氏が中心となって行いました。ご存知の方と多いとは思いますが、カネシゲファームでは豚舎の糞尿排水をメタン発酵させてバイオガスを煮炊きなどの燃料として利用してきました。今回は小型のガスエンジンを持ち込んで、小規模発電の実験を試みたものですが。①カネシゲファームのバイオガスで小型エンジンが回せるか、②エンジンによって発電できるのかというシンプルな目標をふたつ設定しました。

(有)十勝アグリワークス青木氏は、帯広畜産大学をはじめとした大きなバイオガスプラントの管理等を担っている傍ら、バイオガスで稼働する内燃式のポータブルガスエンジンの開発をおこなっています。一昨年の夏(2011年)に山梨大学で行われたエンジンの稼働テストで御園生先生を介して青木氏と出会い、カネシゲファームでの実験をお願いしてきました。エンジンの改良やその他の準備、現地への輸送などに時間を要しましたが、なんとか実験開始まで漕ぎつけることができました。このエンジンが日本の家庭用にも利用され、さらにフィリピンなどのアジアの小農民に適正(中間)技術として取り入れることができるようになることを目的としています。

はじめに私達は海外で実験を行う厳しさに直面しました。今回、エンジンそのものは航空便にて輸送したのですが、渡航日の約40日前に船便でパーツの一部を送りました。通常は25日~30日で到着するはずの船便が2~3日前にフィリピンを襲った台風のせいで届いていませんでした。青木さんはすぐに代替えのパーツで実験を試みることに頭を切り替え、現地で資材を調達し、簡易パーツを製作し実験へと臨みました。届くはずの荷物は皮肉な事に私達が帰る日の夕方に届きました。

実験は脱硫装置(注1)と水抜き装置(注2)の組み立て設置、エンジンとオルタネーター(注3)の設置から始めました。今回の発電は自動車の発電方法と同じやりかたで発電をさせます。エンジンを使って自動車用のオルタネーターを回し発電させ車用のバッテリーを介し、さらにインバーター(注4)を使って直流(12V)から家庭用の交流(220V、日本は110V)に変換し電源を得ます。発電フロー図はバイオガスプラントから発電させるまでのものです。

バイオガスプラントから脱硫装置を通じてガスを送る。

■発電フロー図

1.バイオガスプラント
↓ メタンガスの流れ
2.水抜き装置

3.脱硫装置

4.ガス圧弁(今回はガスパック)

5.小型エンジン 135CC 4馬力

6.オルタネーター

7.自動車用バッテリー

8.インバーター DC12V→AC220V

9.電力供給

左からインバーター、バッテリー、エンジン、オルタネーター。

すべてのパーツが組み終わると、あらためてガス圧とメタン濃度を再度チェックします。ガス圧は1.25ヘクトパスカル(通常の家庭用都市ガス圧は2ヘクトパスカル程度)、メタン濃度は約65%、まずはエンジンを回すところからはじめました。実は届かなかった荷物の中にガス圧を調整するパーツがあったため、今回はそれを使えなかったので簡易ガスパックを使って、手動で微調整しながらガスを送り込みました。何度も何度もエンジンのスターターを引いて、エンジンの音を確認しながらガス圧を調整していきます。はじめてから約10分後にエンジンが回りました。目的の①は達成です。手伝ってくれたカネシゲファームのスタッフや私達、日本側のスタッフはハイタッチをしながら喜びました。ですが、喜んでいるのも束の間、一旦エンジンを止めて、今度はバッテリーにつなぎ発電できる状態にするとエンジンがすぐに止まってしまうようになってしまいました。発電しようとすると何らかの負荷がエンジンにかかってしまい、エンストをおこしてしまうのです。またはじめから機材の連結から配線などの確認をはじめます。それでも同じことを繰り返してしまいます。原因をいろいろな方向から考えてみました。結果、エンジンとオルタネーターの容量バランスに問題があるようなことが一番考えられるのではないかということで時間切れとなってしまいました。ガソリンを使っていればこの容量バランスでも問題ないのではないかとのことでしたが、バイオガスを利用している以上、きちんとした計算は未知数なのです。オルタネーターに内蔵されているはずのチャージコントローラーが機能していない可能性も考えられたので、その後は現地のスタッフを中心にオルタネーターの容量などを小さくしてもらい、エンジンにかかる負荷を減らす方法で再度挑戦してみるということになりました。あらためてバイオガス発電の難しさを目の当たりにしました。同時に実験により技術そのものが向上していく難しさと楽しさを感じることができました。

年明けになり、現地のアルフレッド・ボディオス氏(カネシゲファームの責任者)から朗報が入りました。チャージコントローラーを別に付け加えた上で小さなオルタネーターをつなげたところ、短時間ですが発電に成功したとのことでした。今後も引き続き実験を繰り返し、安定した発電ができるようになることを目指します。その後は、使用ガス量に対する発電量などの関係性を検証し、効率のよい発電システムにしていく予定です。

報告:秋山澄兄(あきやま・すみえ/BMW技術協会事務局長)

注1:脱硫装置/メタンガスからエンジンに悪影響を与える硫化水素を取り除く装置。ガスの通り道に筒状の装置を設け、中に鉄化合物を入れて硫化鉄にして除去する。

注2:水抜き装置/メタン発酵槽内は湿度ほぼ100%で、ガスにも水分が多く含まれている。脱硫装置の保護と、エンジンの安定運転のためにも水分を極力除去する必要がある。

注3:オルタネーター/発電機の一種で、エンジンなどから伝達される機械的運動エネルギーを電気エネルギーへと変換する装置。今回は車用のものを使用。

注4:インバーター/直流から交流に変換する電源回路を持つ電力変換装置。今回は12Vの直流電気をフィリピン家庭用交流220Vへ変換する際に使用。