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2025年11月20日〜21日東ティモール、食料主権への取り組み

11月20日〜21日、首都ディリで開催されたアグロエコロジー・フェスティバルに参加してきました。アグロエコロジーとは農業を意味する”agro”と生態学の”ecology”、検索してみると農生態学と訳されていることが多いようです。もう少し具体的に考えると、「有機農業」「持続可能な農業や食のあり方」「パーマカルチャー」、そんなワードが頭に浮かんできます。国連食料農業機関(FAO)はアグロエコロジーを構成する10第要素として、「多様性」「知識の共創と共有」「相乗効果」「効率」「リサイクル」「回復力」「人間的・社会的価値」「文化と食の伝統」「責任あるガバナンス」「循環と連帯的経済」をあげています。

東ティモールではアグロエコロジーの考え方に基づいた活動が活発で、今回のアグロエコロジー・フェスティバルの開催もTASPA(食料主権のための小規模農民によるアグロエコロジーへの移行プログラム)が主体となり、APLAの協力団体であるKSIやPermatilも運営団体となっていました。2日間のイベントでは、持続可能な農業、気候変動とコミュニティのレジリエンス(回復力)、土壌保全、水源保全、在来の種子保全などをテーマにセミナーやワークショップがいくつも行われました。また、東ティモール各地から小規模農民やNGOがブースを出展し、農産物や地元の食材を使った加工品や食事、手工芸品、コーヒースタンドなどが並びました。

APLAもブースを出し、4つの活動を用意しました。1つ目は、エルメラ県で長年活動を共にしてきたコミュニティによる加工品と食事です。バナナチップスやピーナッツ、パイナップルの発酵酒といった加工品のほか、コミュニティから2名の女性がやってきて在来の豆を使った料理も販売しました。イベント前日からディリ入りし、スタッフのパウラさんの家にみなで寝泊まりして、台所を使ってイベントに出す料理を用意しました。

ブースでおしゃべりをするAPLAのメンバー、Mama Funとディリの若者。

 

2つ目は、ディリに拠点を置くアート組織Arte Morisのアーティスト2名とのコラボレーションで、農や種子をテーマにライブ・パフォーマンスを行いました。1人はアクリル絵の具を使って作品を描き、もう1人は版画作品を制作しました。多くの人が足を止め、制作風景を見学したり、アーティストに質問をしたりしていました。ディリの向かいに浮かぶアタウロ島から来ていた女性の出展者は「まさしく私の土地の風景だ!」と版画作品をとても気に入ったようでした。アクリル絵の具の作品は、エルメラ県のコミュニティでの種子の日干し風景を思い起こさせました。

2人の男性がアーティスト。作品はAPLAに贈られました。

テレビの取材も受けました!

 

3つ目は、在来の食べもの に関するライブZine作り。以前行なった在来の種子に関する調査の結果を基に、エルメラ県の食べものを2つ取り上げました。こちらも制作作業が気になった人が「これ何?どうやって作るの?」と話しかけてきてくれ、作り方や在来の食べものの話へとつながりました。Zineのタイトルは 『Kode Ba Kode Ai-han Lokal(元気かい?ローカルフード)』と名付け、1冊目は雨季にコーヒー畑の中で取れるきのこについて、2冊目は「コンタス」という根菜についての私松村の経験をまとめました。 “Kode ba kode?”はエルメラ県で広く話されているマンバエ語で、APLAが活動してきたコミュニティでも大多数の人が話します。東ティモールでは公用語のテトゥン語とポルトガル語のほかに、多くの地域言語が話されています。

Zineの原本。これをA4用紙に印刷して配布しました。

広げたところ。真ん中に切れ目を入れ折りたたむと小さな冊子になります。

 

4つ目は、西ティモールで在来の食物・食文化保全の分野で活動するLakoat Kujawasで積極的に活動している フード・アクティビストのMama FunことMarlindaさんを招待してのワークショップです。

Mama Funは、Lakoat Kujawasでの取り組みや、その他自身が行なっている在来の食べもの・食文化保全についての活動、西ティモールのモロ地方での食を取り巻く状況についてワークショップで共有してくれました。東ティモールとインドネシアに属する西ティモールとは別の国ではあるけれど、多くの共通性と文化的土台を持った同じティモール島の人間だ、と伝えてくれました。

Dilicious(モダンにアレンジした東ティモール料理が楽しめるレストラン)のオーナーによるワークショップで味見をするMama Fun。

 

エルメラ県の女性たちとMama Funは同じお母さん同士、料理を通してあっという間に打ち解けていきました。2日目の朝には、Mama Funがアレンジを加えた豆料理を台所で一緒に作りました。この豆は、毒素抜きのために水を換えながら何度も茹でなくてはならないもので、東西ティモールのあちこちで古くから食されてきたものです。お互いに「そちらでも食べるんだね」と共通の食文化であることを知りました。

台所で豆料理の準備をする東西ティモールの女性たち。

 

今回のイベント終了後に、「西ティモールに行ってみたい、西側での取り組みを知りたい」との声を何人からも聞きました。人と人が出会い、新しいつながりが生まれました。このつながりを大切に見守っていきたいと思います。

報告:松村多悠子(まつむら・たゆこ/APLA事務局)

*ZINEとは、自身の思いや表現を自由にまとめた個人制作の小冊子のこと。ZINEという言葉は、「マガジン(magazine)」の語尾を取った言葉で、1960〜70年代のアメリカやイギリスで、パンクカルチャーやサブカルの一部として広まったことが始まり。