9月、パレスチナ自治政府が国連加盟を申請し、まずは安保理15理事国で構成される加盟審査委員会で審議が行われることとなりました。米国主導による和平交渉は暗礁に乗り上げ、イスラエルによる占領も進む一方…。そのような状況を背景としたこの申請は、俄かに世界の注目を集め、事態が再び動き出し始める狼煙のように感じます。
イスラエルによるガザへの襲撃から3年近く、ATJを通して日本にオリーブオイルを届けてくれているパレスチナの生産者たちは今どのような暮らしをしているのか、日々をどう感じているのか。ここにATJのホームページに掲載した2つのレポートをご紹介します。(編集部の責任で再編集しています)
変わらないパレスチナの現状 荻沼 民(おぎぬま たみ/ATJ)
2010年11月初旬、オリーブの収穫時期にあわせてATJオリーブオイルの生産地、パレスチナ自治区に行ってきました。
近代的なイスラエルのテルアビブ空港から、陸路にてパレスチナへ。深夜タクシーの車窓からは所々街灯りやホテルが見え、日本の高速道路の風景と似ています。運転手に以前よりパレスチナの状況がよくなったか聞いてみたところ、「何も変わっていない。あそこをみて」。指した方向には、暗闇の中照らされたイスラエル国旗のある施設と道路脇に続く有刺鉄線。鉄線の向こうは元々は自由に行き来できたそうですが、今は完全に隔離されてしまい、鉄線を越えようとすると、収容所に捕まり何ヶ月間か拘留されてしまうとのこと。一見、高速道路の側壁のように見えた高い壁も、イスラエルによって建設された分離壁(イスラエル政府が領土拡張という政治的意図をもってヨルダン川西岸地区に居住させているイスラエル人入植者の安全保障を理由に建設している)でした。
国際的にパレスチナ自治区と認められた領域内には、この分離壁と有刺鉄線が至る所に存在します。また、主要交通路のあちこちのポイントにある検問所がパレスチナ内での移動や生活を非常に困難にしています。今回訪れたヨルダン川西岸地区は日本でいうと三重県程の広さですが、この地域にある検問はおよそ20ヶ所。場所によってはいつ開くか、またどの検問で止められるかわからないので、隣町に行くのはもちろん、待ち合わせや品物を届けるなどといったことも、ここではままなりません。
オリーブを生産する村のひとつ、北部ジェニンのヤムーン村で、祖父の代からこのオリーブの土地を継いできたというおばあさんに会いました。「私たちはここで生まれて、オリーブと一緒に生きて、そして死んでいくだけ」という、シンプルでありながらも力強い言葉には、この大地と共に生きてきた年月の長さと、これからもここでオリーブを守り育てていく、という強い決意がつまっていました。
イスラエルの入植地が広がることにより、オリーブ畑の土地を接収されたり、木を焼かれる、抜かれるなどの被害が続いています。その都度、彼らはオリーブを植え続けているのだそうです。”平和”を意味するオリーブは、ここパレスチナでは抵抗のシンボルにもなっています。
支援で変わるオリーブ生産 イスマエル・モハド(オリーブオイル生産者)
私が住むアルザイエ村はサルフィート郡の西部にあり、約6,000人が暮らしています。私たちの協同組合は、パレスチナ農業復興委員会(PARC)の支援により、2008年に設立されました。それ以前は、一人ずつが個別に昔からの方法でオリーブオイルを生産していましたが、良い価格で売ることはできませんでした。今、私たちの協同組合は、5人の女性を含めて、全部で22人のメンバーがいます。環境保護や村の清掃キャンペーン活動など、社会的な運動にも関わっています。
PARCの指導に基づいて多くの農民が有機的な農法に転換し、質の高いオリーブオイルの製造を始めたことが収益をあげることにつながり、オリーブオイル保管に適したステンレスタンクや、品質確認のために簡易な実験室も設けることができました。そして国際フェアトレードラベル機構の認証も取得し、海外のフェアトレード市場へ参入することもできました。PARCのプロジェクトを通じて大きく改善されたことは、非常に喜ばしいことです。
一方、イスラエルの入植者がパレスチナ人農家やオリーブ畑を襲撃してくることがあり、大きな問題となっています。それに加えて、分離壁により村の土地の大部分が没収されてしまっているのです。
これらのような問題を抱えながらも、私たちはより良い生活を手にするために奮闘しています。そして日本の皆さんのように、私たちの苦しみを感じ取ってくれる人びとが世界中にいることを、皆知っています。パレスチナのオリーブオイルを選んで使ってくれている、ということが私たちを前向きなものにしてくれているのです。私たちは、エシカル(道徳的)な消費活動は、変革をもたらすことができると信じています。
「皆様がパレスチナのオリーブオイルを使い続けて下さることは、不条理な世界の中における正義の形である」ということを、今一度お伝えさせていただきたいと思います。
※どちらも全文は【ATJホームページのオリーブオイル最新レポート】からご覧いただけます。
パレスチナの国連加盟申請後、イスラエルが入植地へのさらなる住居建設計画を打ち出しましたが、パレスチナ人自身がその建設を担っているといい、イスラエルに寄る辺を求めるしかない経済状況が浮き彫りになっています。また、インティファーダの頃の方が希望があったと、絶望に近い諦めの境地にいる人びとがいるのも事実です。これまで以上にパレスチナの内情に目を向けながら、パレスチナが今後どういう道を探ろうとしているのか、人びとに、生産者たちにどんな影響があるのか、注視していく必要があります。