2023年10月7日のハマスによる越境攻撃をきっかけに始まったイスラエル軍によるガザの大量破壊・ジェノサイド攻撃は4か月に及び、ガザ地区では多数の死者、負傷者が出ています。また、食料や水、電気、燃料、医薬品が極度に不足し、ほとんどの住民が避難生活を強いられているガザ地区の深刻な状況はメディアでも報道されています。
その一方で、民衆交易のオリーブオイルの産地であるヨルダン川西岸地区の緊迫した状況はかなか情報が届きません。収穫期を迎えたオリーブの産地はどうなっているのか。産地や生産者の現在を伝えるため、APLAとオルター・トレード・ジャパン(ATJ)は、2023年12月13日にオンラインで現地とつないで、「パレスチナのオリーブ生産者は今」を開催しました。パレスチナとの時差(7時間)のため、19時から21時という遅い時間帯での開催にもかかわらず、278名(事前登録者数は409名)の方々にご参加いただきました。
以下、報告の要旨をまとめました。
1)ヨルダン川西岸地区の人びと、農民が置かれている一般的状況について
パレスチナ農業開発センター(UAWC)代表 フアッド・アブサイフ氏
1993年に交わされたオスロ合意に基づき、ヨルダン川西岸地区はA、B、Cの三つのエリアに分かれた。このうち、面積の60%以上を占め、行政も治安もイスラエルが実権を握るエリアCには、イスラエル人入植者70万人、パレスチナ人30万人が住んでいる。オリーブ生産者のほとんどがこのエリアCに住んでいる。
エリアCに建設されている高さ11メートルの分離壁(現地ではアパルトヘイト壁と呼ばれている)は全長750キロに及び、パレスチナ人の家族や土地を分断している。自由に移動することが難しく、教育や医療へのアクセスといった基本的なことさえままならない。
また、オリーブ生産者はイスラエル軍や入植者の日常的な暴力にさらされてきた。2023年は暴力が増え、23年上半期には591件、10月7日以降は毎日40〜50件の暴力事件が発生し、オリーブ生産者はほぼ移動できない状況である。
2)2023年10月7日以降の西岸地区の状況及びオリーブ収穫について
アルリーフ社(パレスチナ農業復興委員会・PARCのフェアトレード事業会社)代表 サリーム・アブガザレ氏
パレスチナには900㎢もの土地にオリーブの木が植えられているが、入植者にオリーブの木が抜かれたり、農民への暴力が起きていた。例年10月〜11月が収穫期だが、2023年はガザ地区での紛争と重なってしまった。入植者による収穫中の農民への280件もの攻撃、また、オリーブを運搬する車両を燃やす事件が起きている。10月28日には、アル・サウィヤ村で収穫中の農民、ビラール・サーレフ氏が入植者によって銃撃され、亡くなった。
収穫ができなかったオリーブはオイルにして1500トン相当、金額にして1050万米ドルもの大きな損失が出た。自分の土地にとどまり、オリーブを収穫するという当たり前の権利が奪われてしまった。
3)オリーブオイル民衆交易事業の意義について
○ フアッド・アブサイフ氏
フェアトレードは生産者の暮らしを支える大切な取り組みだ。だが、パレスチナのオリーブは他の産地、商品とは違った重要性がある。生産者はイスラエル占領下で貧しくされた小農民で、入植者の暴力によって常に危険にさらされている特殊な状況下でオリーブを生産している。生産者、労働者、消費者にとって公正な価値、価格で取引されるべき。民衆交易は農民がオリーブ生産を続けることを保証し、尊厳を保ち続けるために非常な重要な手段である。
○ サリーム・アブガザレ氏
この21年間、日本や韓国の消費者からは遠いパレスチナからオリーブオイルという商品だけでなく、占領下に住む人びとの物語も伝えようとしてきた。パレスチナ人が農業や土地を愛し、土地にとどまり、耕し続け、質の良いオリーブオイルを生産し、消費者に届けたいという農民の姿もその一つだ。
この後、UAWCフアッド・アブサイフ氏、PARC事業部長のイザット・ゼダン氏より、ガザ地区・ヨルダン川西岸地区における緊急支援の進捗報告がありました。報告内容は両団体のこれまでの報告と重なりますので、以下の報告をご覧ください。
「Stop Gaza Starvation(ガザの飢餓を止めろ)」キャンペーンの報告
セミナーのアーカイブ動画
▼全編(2時間6分)
▼ダイジェスト(21分)
セミナー後にご記入いただいたアンケートには、「現地の声を、当事者の言葉で、直接聞くことができてよかった」、「メディアからは分からないパレスチナでの現状、現実を知った。パレスチナ問題が身近になった」、「一刻も早い停戦のために自分にできることをしたい」、「ヨルダン川西岸地区ではこれまでも日常的にイスラエル軍や入植者による暴力行為があり、10月7日以降増加していることを初めて知った」、「困難な状況下で栽培されているオリーブオイルを利用することで、少しでも力になりたい」、「国は関係なく、人と人がつながる民衆交易の大切さを改めて感じた」、「胸が張り裂けそう。安心してオリーブオイルが生産できる平和な日が一日も早くきますように」、「救援カンパにも協力したい」といった感想、現地へのメッセージが多数寄せられました。
なかでも印象的な感想、メッセージをご紹介します。
<感想>
「私たちが購入することで、不戦の意思表示をし続けたいと思います。」
「土地を奪われ傷つけられ、その加害者は正当に裁かれない。人としての尊厳が奪われている中、オリーブオイルを通して、パレスチナの誇りを届けて下さっているのだと思いました。」
「暴力におびえながらの農作業、命がけでオリーブを収穫している姿を目に焼き付きました。決して忘れることなく、心に留めます。そしてオイルをありがたくいただきます。」
「人は数であらわすものではなく、ひとりひとりに名前があり生活があることを繰り返しメッセージと
して伝えておられたことが印象に残りました。」
<現地へのメッセージ>
「オリーブの収穫寸前での攻撃に心がズタズタに切り裂かれてしまったことかと思います。どうかご無
事で。日本でみなさんのオリーブオイルを待っている組合員がたくさんいます。希望を失わないでく
ださい。」
「様々な攻撃、妨害がある中で、土地を愛し、耕し続け、その結果であるオリーブオイルを世界に届けていることは、大変勇敢な戦いであるのだと思います。」
「迫害や暴力により恐怖と不安の日々の中、私たちにオリーブオイルを届けてくれています。救援カン
パはもちろんですが、命がけで作ってくれたパレスチナのオリーブオイルを利用することもずっと続
けていきたいです。」
「私たちが民衆交易を続けることが強く平和を祈り、暴力に抗議する力になると信じます。」
「日々、報道されるパレスチナの状況に心を痛めながらも、今、何ができるか、焦燥感に駆られていました。当面、PARC、UAWCを支援することに努めたいと思います。」
パレスチナのオリーブオイルをATJに紹介し、パレスチナとの連帯のきっかけを作って下さったコリン・コバヤシさん(フランス在住の美術家・著述家・ジャーナリスト)にもご参加いただき、現地へのメッセージを頂きました。
「1日も早く戦争を終わらせて、古来から悠久に続いていたオリーブ生産が安心してできる日が来るのを心から祈ります。そのためには、パレスチナーイスラエル紛争の根源的な解決が不可欠です。皆さんの勇敢で強い意志に敬服し、心から声援を送ります。」
感想、メッセージをパレスチナの報告者の方々に伝えたところ、「コメント、ご支援・ご理解に励まされました。皆さんの連帯は私たちにとってかけがえのない貴重なものです」との返事がありました。
今後も現地の状況について適時、報告してまいります。
まとめ:小林和夫(こばやし・かずお/ATJ広報室)