読みもの

手わたしバナナくらぶニュース

219号(2013年7月+8月)【コラム】小商い開店中(1)ゼルコバ

取材した日もお昼前にはパンが売り切れ。

開店と同時に行列ができ、週末など、早い時にはお昼前にパンが売り切れてしまうパン屋さん。……なんて聞くと、「小商い」とはかけ離れているんじゃない?と思われる方もいるかもしれませんが、本コラムでゼルコバをご紹介したいと思ったのには訳があります。それは、パンを焼く小野孝章(たかあき)さんと理恵さんのぶれない姿勢。たとえば、この地で農業を続けてきたご両親たちが無農薬・無化学肥料で育てた野菜をつかった季節ごとのパンやスープ。自家消費用のうどんを作るために小麦を栽培しているご近所さんからフスマを分けてもらうようになったことがきっかけで生まれたシンプルなパン。遠くからかき集めた“良いもの”よりも、“ここにあるもの”を大切にしたパンづくり・お店づくりをしたい、というおふたりの思いは、地域に根ざした「小商い」の発想そのものではないでしょうか。

自分たちのパン・お店を越えて

パンの生まれる場所。

お店のテラスと庭を開放して開かれるナツイチは、お菓子やアートなど、スタッフ一人ひとりの特技が「小商い」に育つような場として企画したものだったそう。予想以上の反響があり、今では毎夏恒例のイベントとなっています。また、震災後、三多摩に暮らす友人たちとグループをつくって映画の上映会なども続けていて、人のつながりや自分たちの暮らす地域を大切にする孝章さんと理恵さんの生き方が伝わってきます。

そんなおふたり、動物や植物が大好きだといいます。特に、毎朝(というより夜!)1時半から工房に立ち、パンづくりをする孝章さんの口から「酵母は生き物。道の草や動物を観察しながら季節を肌で感じることが、パンづくりに生きているんです」という言葉を聞いたときには、ゼルコバのパンのおいしさの理由がわかった気がしました。

バランゴンとの出会い

ちょうどバナナの仕込み中でした。

おふたりの夢は、自分たちの周りでとれるものだけでパンづくりをすること。そうなると、大好きなバナナパンはいつか姿を消してしまうかも……と複雑な胸中を伝えると、「以前は“普通のバナナ”以外に選択肢があるとは思っていませんでした。それが、バランゴンバナナと出会って、相手の顔の見える素材を大切につかってパンをつくることを改めて深く考えることができたので、とても感謝しています。これほど身近に感じるバナナはないです」と笑って話してくれました。

大人気!バナナのパン

最後に、バランゴンバナナは以前つかっていた“普通のバナナ”と違って、管理が大変でしょう? と少しいじわるな質問をしてみました。「一つの箱の中に入っているバナナでも、サイズや形、熟度が違うので、まずはすべて取り出して眺めます。そして、パンの中に練り込むバナナ、上に飾る用のバナナと分けて、一週間でどのように上手に使い切るか、熟度を考えて保存場所を考えるのがとても楽しいんですよ」と。そんな風に手間暇をかけてつくられたゼルコバのバナナパン、チャンスを見つけて召し上がってみてくださいね。(野川未央/APLA)

ゼルコバ
山梨県北杜市白州町白須258-1
電話:0551-45-8124
営業時間:10時~売り切れまで
定休日:月・火
ブログ:http://zelkowa.cocolog-nifty.com/

みなさんは「小商い」という言葉を聞いたことがありますか?『小商いのすすめ』(2012年、ミシマ社)の著者である平川克美さんは「自分の手の届く距離、目で見える範囲、体温で感じる圏域でビジネスをしていくこと」だと説明しています。グローバル化によって、一握りの大企業が世の中を席巻する昨今、私たちの身の回りには、誰がどこでどのように作ったかが見えにくいモノがあふれてきています。その裏では、環境破壊や資源を巡る争い、遺伝子組み換え作物の急増も。この事態を変えていく鍵が「小商い」にあるかも…!と考え、その実践者にお話を聞きます。