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手わたしバナナくらぶニュース

222号(2014年1月+2月)【コラム】小商い開店中(4)カフェ・ギャラリー風と木

「ふうとぼく」とよみます。

fuu1「風と木」は丹治さんご一家が営んでいるカフェ・ギャラリーです。福島市渡利という地域にあります。丹治さんは、玄米や畑でつくっている季節のものを取り入れて、食事のメニューを作っています。調味料にもこだわり、自分たちが食べておいしいもの、安心して食べられるものを考え、お客様に食べてもらいたいと考えているそうです。ATJから、マスコバド糖やゲランドの塩、ペルーコーヒーの生豆などを仕入れてくださっているご縁で訪問してきました。

fuu2住宅街の一角に立つ、石畳敷きの小さな井戸の脇を過ぎ、古い家の大きくて重たい扉を開けると、お客さんが思い思いに本を読み、食事をしています。入口を入ってすぐ、映画・美術・農業などに関する案内が並べてあり、入口正面には、会津木綿の布など。左を向くとマスコバド糖、ゲランドの塩、種ありブドウ、トウガラシの束などが並べて置いてありました。芸術書が並ぶお店の本棚には、絵本『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』(構成・文:アーサー・ビナード)もおいてありました。ベン・シャーンの作品は、福島県立美術館も所蔵しています。
ちょっと珍しいのは、週末の3日間のみの営業であること、時間も11時から15時までの限定であること、でしょうか。でも、元々は、ここも週に6日開き、昼も夜も営業していた“普通の”カフェだったのです。2011年3月に原発の事故が起こるまでは。

自給自足というかたち

原発の事故の後、畑を渡利から山形県米沢市に移し、今は米沢産の材料をつかって、店を運営されています。エネルギーは薪です。渡利に山を持っているけれど、渡利の山の木は放射能レベルが高いため薪にはできず、米沢で3年分の薪を用意したとのこと。
一呼吸おいたあと、「この先、自分たちがここで生きていける形は、自給自足のようなものだろうと考えている」と話してくださいました。
東京で暮らしている私は、お味噌も醤油も米も肉も服も水もガスも電力も、買ってきて消費することが日常の生活。つくってくれている誰かがつくれなくなったら? 持ってきてくれている誰かが持ってきてくれなくなったら? 電気ってどこでどうやってつくっているの? そうしたことへの想像力を、すっかり持ち合わせなくなっていたことに気がついた2011年でした。
丹治さんは、放射能の数値を測りながら、少しずつ畑も渡利で再開しはじめました。店の外にあった井戸は、掘ったばかりのもの。水の数値は問題なく、自分たち用に使用している、とのことでした。

小さくても一生懸命やっているところから

fuu3そんな丹治さんは、前に私が送った手紙を覚えている、と教えてくださいました。ゆうゆうと流れる阿武隈川、すぐそこに迫るなだらかな山。お米がとれて、水がおいしくて、なんていいところなんだろう、と思います。その一方で、ちょっと目を転じるとすぐそこに全村避難になっている場所があるのです。東京に住む自分たちが生み出してしまった恐ろしいものとどう対峙したらいいのか考え続けなければなりません。
丹治さんからパレスチナのオリーブオイルのご注文をいただいたのが、それから一カ月後のこと。「僕らは大きなところから大きなものを仕入れる必要なないんだ、小さくても一生懸命やっているところから買いたいんだよ」と言っていただいた言葉を忘れることができません。丹治さんに会いに、また「風と木」に行こうと思っています。中村桃子(なかむら・ももこ/ATJ)

カフェ・ギャラリー風と木
福島県福島市渡利字番匠町56-2
電話/FAX:024-523-3088
営業日:土・日・月
HP:http://www008.upp.so-net.ne.jp/fuutoboku/

みなさんは「小商い」という言葉を聞いたことがありますか?『小商いのすすめ』(2012年、ミシマ社)の著者である平川克美さんは「自分の手の届く距離、目で見える範囲、体温で感じる圏域でビジネスをしていくこと」だと説明しています。グローバル化によって、一握りの大企業が世の中を席巻する昨今、私たちの身の回りには、誰がどこでどのように作ったかが見えにくいモノがあふれてきています。その裏では、環境破壊や資源を巡る争い、遺伝子組み換え作物の急増も。この事態を変えていく鍵が「小商い」にあるかも…!と考え、その実践者にお話を聞きます。